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半導体の表面を見る方法って?主要な表面分析技術を紹介

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半導体は現代の電子機器に欠かせない素材であるため、表面の構造や性質を正確に把握することは非常に重要です。半導体表面分析技術は、表面の組成、構造、形状、および物理的特性を調べるために使用されます。本記事では、半導体表面分析技術の進歩と現在の状況について解説します。

 

目次

半導体表面分析技術の進歩

半導体表面分析技術は、その進歩により表面の組成や形状、物理的特性をより正確に解析できるようになってきています。以下に、主要な技術について紹介します。

静電容量型走査プローブ顕微鏡(SCM)

静電容量型走査プローブ顕微鏡(Scanning Capacitance Microscopy, SCM)は、ナノメートルスケールの表面形状や電気的特性を非接触で測定するための表面分析技術の一つです。

SCMは、微小な導体チップをサンプル表面に接触させることなく、静電容量の変化を検出することによってサンプル表面の形状や電荷密度などを観察することができます。チップとサンプルの間に電圧を印加することで、サンプル表面の電荷状態を変化させ、その変化に伴う静電容量の変化を測定することができます。

SCMは、半導体デバイスの微細なキャリア分布や、半導体材料のキャリア移動率やドーピング濃度の測定に利用されます。また、表面に電荷を持つ微粒子や生体分子の観察にも有用です。SCMは、AFM(Atomic Force Microscopy)やSTM(Scanning Tunneling Microscopy)などのナノテクノロジー分野における表面解析技術の一つとして、広く研究や産業分野で利用されています。

オージェ電子分光法(AES)

AES(Auger Electron Spectroscopy)は、表面分析技術の一種であり、固体表面上に存在する元素の種類と量を分析するために使用される非破壊的な分析法です。

AESでは、元素の内部電子が放出された後にオージェ電子(Auger Electron)が放出される現象を利用して、表面に存在する元素を分析します。試料表面に陽子、電子、またはイオンビームなどのエネルギーを与えることによって、元素表面にエネルギーが蓄積されます。このエネルギーが元素表面に存在する内部電子を励起させ、内部電子が放出された後にオージェ電子が放出されます。このオージェ電子のエネルギー分布を測定することで、試料表面に存在する元素の種類と量を決定することができます。

AESは、表面に存在する元素の定性分析や定量分析に用いられます。特に、金属や半導体の表面解析、薄膜の成分分析、材料研究、エレクトロニクス産業、化学産業、石油産業など、様々な分野で広く利用されています。

光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)

光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)は、物質表面の元素の組成や化学状態、電子構造を調べるための分析技術です。

XPSでは、試料表面にX線を照射することで、表面から放出される光電子のエネルギー分布を測定します。このエネルギー分布から、試料表面に存在する元素の種類や化学状態、電子構造などを調べることができます。XPSは非破壊であり、試料の表面に影響を与えないため、表面分析に適しています。

XPSは材料科学、化学、電子工学、生物学などの分野で広く利用されています。例えば、金属、半導体、触媒、有機分子などの表面分析に利用され、材料の開発や品質管理、表面処理などに貢献しています。

AESとXPSの違いは?
 AES(Auger Electron Spectroscopy)とXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、表面分析技術の一種であり、元素の種類と量を分析するために使用される顕微鏡法です。
 AESとXPSの違いは、分析する粒子の種類と分析原理にあります。AESは、原子の内部電子が放出された後にオージェ電子(Auger Electron)を測定することで元素の分析を行います。一方、XPSは、X線によって原子から光電子が放出された後、放出された光電子の運動エネルギーを測定することで元素の分析を行います。
 AESはXPSに比べて解像度が高く、元素の同位体の区別が可能です。一方、XPSはAESに比べて定量性が高く、検出限界が低く、元素の酸化数や結合状態の情報を得ることができます。
 したがって、AESとXPSは分析する対象物や分析する情報の目的によって使い分けることが適切です。

走査型トンネル顕微鏡(STM)

走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)は、物質表面の原子スケールでの形状や電子構造を調べるための高分解能顕微鏡です。

STMでは、試料表面に極めて鋭い先端を持つ導電性プローブを近づけ、表面とプローブの間に微小な隙間を作ります。その後、プローブに流れる微弱な電流と試料表面の電子の間にトンネル現象が起こり、その電流の大きさを測定することで、表面の形状や電子構造を観察します。

STMは非破壊であり、高分解能なため、表面形状や表面電子構造の解析に適しています。また、STMは室温下でも動作するため、高真空下での実験が必要な従来の顕微鏡と比較して実験条件が簡素化できます。

STMは表面科学、材料科学、電子工学などの分野で広く利用されており、表面反応、表面の物性、表面のナノ加工などの研究に貢献しています。

原子間力顕微鏡(AFM)

原子間力顕微鏡(AFM)は、表面の形態や物理的性質を非常に高い分解能で測定できる技術です。AFMは、微小なプローブを試料表面に接触させ、プローブと試料表面間の原子間力の変化を検出することで表面形態を解析します。AFMは、表面の凹凸構造や摩擦特性、磁性などを解析することができます。
原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)は、物質表面の形状を原子レベルで計測するための高分解能顕微鏡です。

AFMでは、試料表面に極めて鋭い先端を持つカンチレバーを接近させます。カンチレバーは試料表面の微小な起伏に反応して、カンチレバーの変位を検出するための光学系やピエゾ素子による制御を用いて、試料表面の形状を測定します。また、カンチレバーの先端には原子サイズの先端を持たせることができ、試料表面の原子配列や分子構造を解析することもできます。

AFMは非接触であり、高分解能なため、表面形状や表面物性の解析に適しています。また、AFMは室温下でも動作するため、高真空下での実験が必要な従来の顕微鏡と比較して実験条件が簡素化できます。

AFMは材料科学、生命科学、表面科学などの分野で広く利用されており、ナノ材料の研究、分子間力の解析、生体分子の構造解析などに貢献しています。

走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)

走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)は、物質表面の形状、構造、表面特性を高分解能で観察するための顕微鏡です。

SEMでは、試料表面に高エネルギー電子線を照射し、表面から放出された二次電子や後方散乱電子を検出することで、試料表面の形状や構造、表面特性を観察します。SEMは、極めて高い空間分解能を持ち、試料表面の微細な構造を観察することができます。また、試料表面に特定の元素を含む粒子が存在する場合には、反射電子を検出することで元素の分布状況を観察することもできます。

SEMは材料科学、地球科学、生命科学、電子工学などの分野で広く利用されており、ナノ材料の解析、微小加工技術の開発、生体材料の構造解析などに貢献しています。

エネルギー分散型X線分光法(EDX: Energy Dispersive X-ray spectroscopy)

エネルギー分散型X線分光法(EDX: Energy Dispersive X-ray spectroscopy)は、電子線顕微鏡や走査電子顕微鏡などに組み込まれている、物質中の元素組成を分析するための手法です。

EDXは、試料に高エネルギーの電子線を照射し、試料内の原子核を励起させることで放出されるX線を検出し、そのエネルギー分布から試料中の元素の種類と量を特定します。試料に照射される電子線のエネルギーは、試料中の元素によって吸収されるため、検出されるX線のエネルギーには元素に依存したピークが現れます。そのため、検出されたX線のエネルギースペクトルから、試料中の元素組成を解析することができます。

EDXは、試料を破壊せずに元素組成を分析できるため、材料科学、生命科学、地球科学などの分野で幅広く利用されています。また、EDXは非常に高い感度を持っているため、微量元素の検出にも適しています。

飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS: Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)

飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS: Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、物質表面の化学組成を高分解能で解析する表面分析技術の一種です。TOF-SIMSは、物質表面に陽イオンビームを照射し、表面から放出される二次イオンを検出することで、表面の化学組成を解析します。

TOF-SIMSは、物質表面に照射された陽イオンが表面原子や分子をイオン化することで、表面から放出される二次イオンを検出します。放出された二次イオンの飛行時間を測定することで、二次イオンの質量を解析することができます。質量解析を行うため、TOF-SIMSは、高分解能かつ高感度であり、微量な分析物の検出が可能です。また、TOF-SIMSは、分子の構造解析や表面反応の研究にも利用されます。

TOF-SIMSの主な応用分野は、材料科学、生物科学、環境科学、化学などの分野です。材料科学分野では、表面処理技術の開発や表面反応の解析、また、化学的・物理的な変化による表面化学組成の変化の研究に利用されます。生物科学分野では、生体分子の分布や化学組成の解析、また、細胞や組織の構造解析に利用されます。環境科学分野では、大気汚染物質や水質汚染物質の解析、また、土壌汚染の原因物質の解析に利用されます。

二次イオン質量分析法 (SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry)

二次イオン質量分析法 (SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry)は、物質表面の化学組成を解析する表面分析技術の一種です。SIMSは、物質表面に高エネルギーなイオンビームを照射し、表面から放出される二次イオンを質量分析することで、表面の元素や化学組成を解析します。

SIMSでは、照射されたイオンビームが表面原子や分子をイオン化することで、表面から二次イオンが放出されます。この二次イオンを分析することで、表面化学組成を解析します。SIMSは、高分解能であり、元素分析だけでなく、分子間相互作用や表面反応の解析にも利用されます。

SIMSは、材料科学、生物科学、化学、半導体産業などの分野で広く利用されています。材料科学分野では、表面化学反応の解析や表面処理技術の開発、また、化学的・物理的な変化による表面化学組成の変化の研究に利用されます。生物科学分野では、生体分子の分布や化学組成の解析、また、細胞や組織の構造解析に利用されます。半導体産業では、微細構造の解析に利用されます。

半導体表面分析技術の現状

半導体表面分析技術は、現在、半導体産業や研究分野で広く使用されている技術です。半導体産業では、半導体デバイスの品質管理や新規材料開発に欠かせない技術となっています。半導体デバイスの性能には、表面の構造や物理的特性が大きく影響するため、表面分析技術は、高性能なデバイスの開発に欠かせないものとなっています。例えば、現代の高速・高密度デバイスでは、極めて微細な構造が採用されており、表面の微細構造がデバイスの性能に影響を及ぼすため、より高度な表面分析技術が求められます。

研究分野では、新しい材料や構造の開発や次世代半導体デバイスの開発に貢献しています。半導体材料の研究では、表面分析技術を用いて、表面の化学的・物理的性質を解析することで、新しい材料や構造の開発に繋げることができます。また、次世代半導体デバイスの開発においても、表面分析技術が重要な役割を果たします。例えば、次世代半導体デバイスの1つであるフィンFETは、極めて微細な構造を採用しているため、表面分析技術による微細構造の解析が必要です。

さらに、現在の半導体表面分析技術には、X線フォト電子分光法(XPS)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、二次イオン質量分析法(SIMS)、そしてTOF-SIMSなど、様々な手法があります。

これらの手法は、それぞれ異なる原理を利用しており、半導体表面の構造や成分、物理的特性を分析するために使用されます。たとえば、XPSは表面の元素分布を解析するために使用され、STMやAFMは表面の原子配列や形状を解析するために使用されます。

また、半導体表面分析技術は、次世代半導体デバイスの開発にも重要な役割を果たしています。例えば、次世代の高速・高密度半導体デバイスには、より精密な表面分析技術が必要とされます。そのため、半導体表面分析技術の研究開発も進んでおり、より高度な技術が開発されています。

さらに、半導体表面分析技術は、半導体以外の材料にも応用されています。例えば、金属材料やセラミックス材料などの表面分析にも使用され、材料の物性解析や品質管理に貢献しています。

総じて、半導体表面分析技術は、半導体産業や研究分野において不可欠な技術であり、次世代半導体デバイスの開発にも欠かせないものです。今後も、より高度な表面分析技術の開発が進み、半導体や材料の性能向上に貢献することが期待されています。

半導体表面分析技術の今後の展望

半導体表面分析技術の進歩は、今後ますます高度な表面分析技術の開発と応用が期待されています。その一例として、AIや機械学習を活用した分析手法の開発が進んでいます。これにより、より高速かつ正確な表面分析が可能になることが期待されています。

また、新しい材料や構造に対応するためにも、表面分析技術の発展が必要とされています。例えば、グラフェンなどの新しい材料では、表面の形状や物理的特性が極めて重要な役割を果たすため、より高度な表面分析技術が求められます。

グラフェントランジスタとは?
現在、LSIに使われるトランジスタのチャネル(電気の通り道)用の材料にはシリコンが使われています。トランジスタのサイズを小さくすることで、高速、低消費電力を実現してきました。しかし、小さくすることには限界があるので、材料をシリコンから、グラフェンに置き換えることによって、更に高速、低消費電力のトランジスタを開発しています。(引用:富士通)

更に、半導体表面分析技術は、今後の次世代半導体デバイスの開発においても重要性を増すことが予想されます。高速・高密度デバイスでは、表面の構造や物理的特性がデバイスの性能に影響するため、より高度な表面分析技術が求められます。これにより、より精度の高い半導体デバイスの開発が可能になり、より高性能なデバイスの実現に繋がると期待されています。

以上のように、半導体表面分析技術は、今後もその重要性が高まり、新しい材料や構造に対応するために、更なる発展が求められます。そして、より高度な表面分析技術の開発が進むことで、次世代半導体デバイスの実現に貢献することが期待されています。

結論

半導体表面分析技術は、半導体産業や研究分野において欠かせない技術であると言えます。技術の進歩により、表面の組成や形状、物理的特性をより正確に解析できるようになっています。今後も表面分析技術の発展が期待されます。

 

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この記事を書いた人

アラサー理系会社員 | 博士号取得後、化学系企業に就職。| 化学にまつわる知識を発信。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • ブログを興味深く拝見しています。分かりやすくご説明くださり、ありがとうございます。

    質問ですが、個人レベルで微細な半導体を検出する方法はあるのでしょうか?
    東京理科大の学生の研究のために、自宅を開放することになりました。生活の中でモスアイ構造体(ナノインプリンティング)とIOT技術をどのように融合させ、活用していくかという実験の一環です。ナノレベルの薄さのモスアイ構造体を塗布させて、生活の中で動作を確認すると言う趣旨です。
    例えば尿意などが分かる介護センサーや、超広角レンズレスフィルムなどの目に見えないけれどそこにある技術を使って遠隔で監視するのですが、素人でもこの設置された微細な半導体を検出する方法はあるのでしょうか?

    スイッチ?電源?を切ってしまえば、その所在は分かることは無いと聞いて少し不安になったのですが、本当でしょうか?
    SEM等を使えばすぐ見つかるとは聞くのですが、生活の中で、例えば壁やガラスに塗布された「見えないけれどそこにある」微細な半導体を探す方法があれば教えてください。

    • お返事遅くなり申し訳ございませんでした。
      ご質問の回答になります。
      半導体の検出には高解像度のカメラやレーザー検出器などありますが、
      ミクロンオーダー、ナノオーダーの微細な半導体を検出できるかどうかは分からないです。
      お力添えできず、申し訳ございません。
      引き続きリサーチさせて頂きます。もしそういった微細な半導体を検出できる装置などが見つけたら、新記事として投稿させていただきます。

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